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Showing posts from July, 2018

西方の人

芥川龍之介の後期の作品に、「 西方の人 」と「 續西方の人 」といふのがある。四つの福音書に對する秀逸なcritiqueとなつてゐて、僕が聖書をきちんと讀んでみたいと思つたきつかけもこの作品である。 福音書を讀むとすぐにわかることであるが、イエスといふ人は、世間に云はれてゐるほど聖人君子ではない。餓鬼の頃から生意気で我儘、自分が私生兒であることは薄々氣附いてをり、そのことで二親を詰りもする(路加2.49)。切れやすく、腹が減つてくると無花果の木にまで當たる(馬太21.19、馬可11.14)。毎度ちんぷんかんぷんの喩へ話をしては、弟子には小言ばかり言つてゐる。あれではイスカリヲテのユダが出て來るのも無理はなからう。ホモ的なところもあつたやうだが(約翰13.23)、友達はゐない。若し一人でもゐたとすれば、それは、十字架にかけられた後の遺體を引き取りにきたアリマタヤのヨゼフだつたと芥川は書いてゐる(馬太27.57、馬可15.43、路加23.50、約翰19.38)。 芥川が深いなと思ふのは、このやうなイエス像から、カトリツク教が、「クリストに達する爲にマリアを通じるのを常としてゐる」理由を、ちやんと讀み取つてゐることである。曰く、「直ちにクリストに達しようとするのは人生ではいつも危險である。」また別の箇所では、「クリスト教はクリスト自身も實行することの出來なかつた、逆説の多い詩的宗教である」とも云つてゐる。 福音書を今なほ文學たらしめてゐるのは、おそらくこの逆説であり、イエスの性格の激しさであらう。ことに屁理屈と人の惡口を云はせれば天下一品である。三島由紀夫が「立派な文體で書かれた人の惡口を讀まされるほど胸のすくものはない」といふ意味のことをどこかに書いてゐたが、馬太傳第二三章は、まさにその壓卷であらう。少し引用してみる。 13: 噫 ああ なんぢら 禍 わざはひ なるかな 僞善 ぎぜん なる 學者 がくしや とパリサイの 人 ひと よ 蓋 そは なんぢら 天國 てんこく を 人 ひと の 前 まへ に 閉 とぢ て 自 みづか ら 入 いら ず 且 かつ いらんとする 者 もの の 入 いる をも 許 ゆる さざれば 也 なり 15: ああ 禍 わざはひ なるかな 僞善 ぎぜん なる 學者 がくしや とパリサイの 人 ひと よ 蓋 そは なんぢら 徧

親文字揃へ

親文字揃へ と 肩付ルビ とがきちんと出來てゐるPDF文書といふものを、僕は、 梅雨空文庫 にあるものくらゐしか知らない。これを自分でもLaTeXを使つて自動化出來ないものかといふのが、ここ何年かの懸案事項の一つだつた。 肩付ルビは、 單語辭書 を持たせる必要があるものの、 LaTeXマクロ が用意されてをり、比較的簡單に實現可能である。また、その副作用で行頭の親文字揃へは自動的に出來てしまふが、問題は行末である。LaTeXをコンパイルしただけだと、親文字(漢字)が浮いたり、ルビが下にはみ出たり見苦しい。これを避けるには、行末に來るルビと親文字に對し獨特の配置ルールを宛がふ必要がある。しかし、縦書きTeXで行末の檢知をうまくやるのは、ネットを漁つてみても、 現状では難しいらしい 。 ここに書いてある通り を自分でも實驗してみたが、やはり期待通りには動かない。 記事 を見る限りでは、和文TeX特有の問題らしいので、TeX或はLaTeXのソースを讀んで手を入れるのが一番正統な解決方法だとは思ふが、そこまでの根気はないので、筋がよくないとは知りつつ強硬策に出ることにした。一旦TeXにかけた後,その出力から行單位に情報を取り出し、揃つてゐない行末を強制するといふものである。TeXが吐くdviをいぢつても好いのだが、 CL-PDF といふ使ひ慣れた道具があるので、dvipdfmxで出來上がつたPDFをパースして強制的に行末を揃へてやらうと思ひたつた。 親文字揃へが崩れるパターンには二つあつて、一つはルビが行末からはみ出るタイプ、もう一つは親文字(漢字)が行末から浮いてしまふタイプである。ルビに關しては、行内位置を計算しながら一つ一つ文字を追ひかけて行き、行末をはみ出たら、その文字を上に引き上げてやる、引き上げたとき、さらに上の文字と重なるといけないので、再歸的に見つつ重なりのなくなつたところで終了。漢字についてはルビよりは簡單で、浮いてゐる文字があれば少し下げて行末に落ち着かせてやる。このアルゴリズムで拾へないケースもあるが、それは實際に遭遇したときに考へることにする。 プログラムの檢證題材は 明治元譯新約聖書 である。 Wikisource にあるテキストからLaTeXを組み立て、PDFにしたものを親文字揃へしてみた。dirty hack とも呼べない ボロ